「司法書士となる資格を有する者」が,「司法書士」となるためには,日本司法書士会連合会に登録しなければならない(司法書士法第8条第1項)。
これを司法書士登録と呼ぼう。
「司法書士」と「司法書士となる資格を有する者」は異なるのである。
「司法書士となる資格を有する者」とは,次の2種類である(司法書士法第4条)。

1 司法書士試験に合格した者
2 裁判所事務官、裁判所書記官、法務事務官若しくは検察事務官としてその職務に従事した期間が通算して10年以上になる者又はこれと同等以上の法律に関する知識及び実務の経験を有する者であって、法務大臣が司法書士法第3条第1項第1号から第5号までに規定する業務を行うのに必要な知識及び能力を有すると認めたもの

「司法書士となる資格を有する者」が司法書士として登録するには,必ずしも研修を受ける義務はない。 
しかし,特に司法書士試験に合格した者が,何らの実務経験を持たない場合,直ちに司法書士としての業務を行う実力を有しない場合がある。
そこで,日本司法書士会中央研修所が主催する新人研修等の各研修を受講することとなろう。 
また,簡裁訴訟代理関係業務を行おうとする者等は,「特別研修」を受講することとなろう。

各種研修を受講し終わるまでには,数か月を要するので,実際に司法書士業務に専念できるようになるまでは,その数か月間司法書士登録を見合わせるという選択肢がある。

 しかし,その間,研修において他の「司法書士となる資格を有する者」との交流や,既存の司法書士,他士業者,その他の関係者との交流において,自らの身分を説明するためにいかなる名刺を交付すべきかが問題となる。つまり肩書が問題となるのである。

この点,司法試験に合格して司法修習生となった者は,「司法修習生」という身分を裁判所法が設定しているから,そのように肩書を付すことに問題がない。 

しかし,司法書士に関する場合,上記の名刺を作成する者は,「司法書士となる資格を有する者で,司法書士登録をしておらず,新人研修等を終えてから,近い将来において司法書士登録を申請しようとしているもの」とでもいうべき存在であるが,これを短い言葉で言い表すことが難しい。
これを言い表す言葉として,「司法書士有資格者」という肩書を付すことについて妥当性はどうか。
また,「平成○○年司法書士試験合格者」という肩書についてはどうか。

司法書士法第73条第3項は,「司法書士でない者は、司法書士又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない。」と定めている。
司法書士は,一定の能力担保を前提に業務を司法書士に独占させ,もって国民の権利保護を図るものであるから,司法書士となる資格を有する者は,懲戒制度によって公の監視が及ばない以上,国民にその者が「司法書士」であると誤信させるような表現は避けることが法の趣旨にかなう。
国民にとって,司法書士試験に合格したのみで当然に「司法書士」の地位を有するものではない,という法律知識が一般的に周知の事実とはいえない。したがって,「司法書士有資格者」,「平成○○年司法書士試験合格者」という肩書を付した場合,司法書士そのものと紛らわしく,これを見た国民に誤解を生ずる恐れがある。「司法書士有資格者」は,通常,説明的に解釈すれば,「司法書士の資格を有する者」であって,「司法書士となる資格を有する者」とは異なる。後者は現時点においては司法書士そのものではないことが読み取れるが,前者からは読み取れない。

司法書士制度が,国民の権利を保護することを目的とすることに鑑みて,司法書士となる資格を有する者がその配布する名刺に付す肩書は,司法書士そのものではないということが読み取れるように工夫することが望ましい。
肩書なしの名刺とすることや,「司法書士となる資格を有する者」と肩書を付すことも一考に値しよう。やや冗長ではあるが,誠実でもある。

裏面に,略歴として,

平成○○年○○月司法書士試験最終合格
現在司法書士となるための登録申請を準備中

あるいは

平成○○年○○月司法書士法第4条2項の法務大臣認定取得
現在司法書士となるための登録申請を準備中

などと記載する方法も考えられよう。
上記の趣旨をよりわかりやすい表現を用いて説明的な文章を記載することも差し支えないであろう。

もっともこのような問題が生じるのは,現代においては現実的に司法書士となる過程が旧来とは異なることに起因するようにも思われる。
すなわち司法書士登録をすることなく事実上数か月間の研修が必要となっているため,この間の身分を説明する必要性が高くなり,その説明に苦慮するのである。
司法書士制度が新規登録にあたり研修を受ける必要がないような社会状況であったり,研修を受けることが事実上必須であったとしても,弁護士制度における「司法修習生」のような名称があれば,さほど苦労はないであろう。

おそらく多くは,司法書士制度に一定の智識を有する者に対して配布することが予定されている名刺であるから,実際に誤解を招く可能性は高いとはいえず,直ちに違法の問題を生じるほどのものではないと考えられる。しかし,名刺は配布が容易な書面であって,作成者の意図と異なる伝播可能性を秘めており,思わぬところで違法の誹りを受けることもありえよう。
晴れて司法書士登録を完了させた後は,飽きるほど「司法書士」の名刺を配ることができる。
だから登録を完了するまでは,自己防衛のためにも,語調はあまり通りがよくなくても,誤解を生む余地のない表現をおすすめしたい。